今週のヘッドライン: 2021年05月 3週号
「産地やブランドの弱体化に直結しかねない被害となり、本当に参ってしまった」と話すのは、モモ12品種(2.5ヘクタール)を中心に経営する福島県桑折町伊達崎(だんざき)の南友祐さん(75)だ。4月中旬の低温により、「川中島白桃」や福島県ブランド認証産品の「あかつき」など、栽培するモモ全体の8割ほどが凍霜害を受けた。農林水産省によると、4月中旬に発生した果樹の凍霜害は、福島県など7県で約2千ヘクタールに及ぶ。
農林水産省は12日、農業の生産力向上と持続性を両立する食料システムの実現を目指す新たな政策方針「みどりの食料システム戦略」を策定・公表した。2050年までに農林水産業の二酸化炭素排出量を実質ゼロ(ゼロエミッション)にするほか、化学農薬の使用量(リスク換算)50%低減や有機農業の面積を耕地面積の25%(100万ヘクタール)に拡大をするなどの高い数値目標を盛り込んだ。目標達成に向け、スマート農業をはじめとする技術革新(イノベーション)を推進し、生産現場への実装・導入を促す方針だ。生産から消費までの食料システムを大きく転換するものであり、農業者だけでなく消費者や流通関係事業者などの理解の下で進める必要がある。
農林水産省は4月30日、2019年の新規就農者は前年比60人(0.1%)増の5万5870人だったと発表した。全体では2年連続で前年をわずかに上回ったものの、49歳以下では同750人(3.9%)減の1万8540人となり、4年連続で前年を下回った。13年の1万7940人に次ぐ低水準で、18年に続き2年連続で2万人を割り込んだ。他産業との人材獲得競争などが要因とみられる。
「養液栽培用の機器は高額なため、修理費用の実費が支払われて助かった。最近は、過去には少なかった雷などの被害が起こるようになっている」と話すのは、高知県芸西村西分甲でピーマンを栽培する岡村信一郎さん(58)。昨年9月に落雷で養液栽培用の機器に被害を受けたが、附帯(ふたい)施設にも通常の補償割合(8割)に最大2割を上乗せできる園芸施設共済の付保割合追加特約に加入していたことで、安定した営農を継続している。安芸市川北甲でナスを栽培する川田索〈もとむ〉さん(71)も、付保割合追加特約の加入により、自動灌水〈かんすい〉設備とボイラーの修理費用の満額補償を受け、修復できた。
梅雨時期を迎え、酪農では、高温や高湿度による暑熱ストレスで乳量や受胎率の低下が懸念される。栃木県畜産振興課は、乳牛の暑熱対策マニュアルを作成。温度と湿度から暑熱ストレスの基準「温湿度指数(THI)」に基づく早めの対策を促す。温湿度の計測によって乳牛へのストレスを把握し、送風機の位置調整や飼料・飲水の管理など低コストで取り組みやすい技術も含めて複数の対策を紹介している。
今年も新茶の季節を迎えた。農作業の合間など、旬の味わいを楽しみながら、ひとときを過ごしてみてはどうだろうか。新茶のおいしい入れ方や楽しみ方を、三重県度会町で伊勢茶を生産する有限会社中森製茶の中森久美子さんに教えてもらう。
【鹿児島支局】霧島市福山町の中村隆太郎さん(20)は、昨年4月に東海大学農学部へ入学したが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で授業がすべてオンラインになった。「実習などもなく家に居ることに対して、思い描いていた大学生活とは違い、ギャップにすごく苦悩しました」と振り返る。地元に戻りオンライン授業を受けながら、父・浩二さん(56)と祖母・ユキ子さん(82)の手伝いをしていたが、本格的に農業をしたいと、退学を決意した。水稲約350アール、キャベツ約50アールの栽培に日々奮闘している。
〈写真:「父がいてくれることで心強く、頼りになります」と草払いをする隆太郎さん〉
【島根支局】出雲市佐田町の株式会社未来サポートさだ(山本友義代表取締役=74歳、構成員8人)では、大豆やWCS(発酵粗飼料)用稲の栽培に加え、草刈り作業を受託し、地域農業の維持管理に貢献している。2018年にデンマーク製の無線操縦草刈機「リネックスSX1000」を導入し、草刈り作業を受託する「耕放支援隊」を組織した。「後方支援と耕作放棄防止を兼ねて、耕放支援隊と名付けました」と山本代表。草刈機は、刈り幅約100センチで、45度の傾斜でも対応。同時に導入したトラクター用アーム式草刈機も使用することで、効率的な作業を可能にした。作業は1アール当たり1500円で請け負う。人力肩掛け式草刈機での人件費と同等の料金であるため、営農組織のほか一般農家からの依頼が多い。受託面積は初年度は約8ヘクタールだったが、年々増え、昨年は約14ヘクタールとなった。
〈写真:無線操縦の草刈機は「シーズン中はフル稼働です」と山本代表〉
【栃木支局】栃木市岩舟町の阿部雅美さん(73)は、水稲「コシヒカリ」を1.5ヘクタール作付ける傍ら、不便を感じていた作業を改善する物作りに40年以上励む。今までに20種類以上の器具を作ったという。その一つ「側溝掃除スコップ」は、土水路をきれいにしたいと考えたのがきっかけ。土水路や側溝の泥は重く、取り除くのに時間がかかる上に、腰に負担がかかる。そこで、てこの原理を用いて、腰を曲げずにすくい上げられ、片手で持ち運べるスコップを開発した。材料はホームセンターで5千円ほどでそろえ、自分で製作した。溶接の際に少し隙間を作り、水や水田の生き物が流れ落ちるようにした。クランプ金具をナットで取り付けたことで、土水路の深さに応じて支点の場所を変えられる。スコップの部分を付け替えれば、除雪作業や稲わらの運搬にも活用が可能だ。
〈写真:側溝掃除スコップと阿部さん。製作した器具はすべて特許を取得している〉
【岩手支局】陸前高田市の一般社団法人ピーカン農業未来研究所(上岡修代表理事)では、北米原産のクルミ科の果樹「ピーカンナッツ」の試験栽培を始め、産地化に向けた苗木の増産などを目指している。試験栽培は2021年3月に同市に委託された取り組みの一環だ。「ピーカンナッツによる農業再生と地方創生プロジェクト」を立ち上げた東京大学、ピーカンナッツを使用した菓子を製造・販売する株式会社サロンドロワイヤル(本社=大阪市)、陸前高田市の3者が共同研究の連携協定を17年7月に締結したことから始まった。ピーカンナッツは抗酸化作用が高く、世界市場では需要が高まっている。同研究所の大林孝典理事は「国内で栽培している例はほとんどない。年間300トンの輸入だけで、希少性の高い作物」と話す。現在、同研究所では10品種、約450本の苗木を育成。同市の気象条件に適した品種や栽培方法を研究する。
〈写真:新芽が生えたピーカンナッツの苗木〉
【北海道支局】士別市上士別町で水稲31ヘクタールを作付ける水留良一さん(58)は、食べる甘酒「甘糀」を2020年秋に販売した。「自分たちが作った米の付加価値を高めるために何かできないか」と思案していた水留さん。19年に自家生産米を使用した発酵食品の甘酒の商品化を決意し、妻の九実さん(53)と甘酒造りを始めた。甘糀は、自家産米「ななつぼし」を原料にした。こうじと水だけを使ったノンアルコール商品で、添加物や防腐剤は一切使用していない。こうじの粒々感が苦手な人でも食べやすいように工夫し、とろとろとした食感が特徴だ。水留さんは「甘糀は濃縮タイプなので、そのまま食べることができます。飲み物に混ぜたり、食べ物にかけたりと幅広く活用することができます。美肌や腸活など健康に効果が期待できるので、たくさんの人に食べてもらいたいです」と話す。
〈写真:甘糀はヨーグルトとの相性抜群。まろやかな甘さが味わえる〉
▼新型コロナウイルスのワクチン接種が各自治体で始まっている。重症化リスクが高い高齢者を優先するのは当然だ。だが、ネットで受け付けとか、電話が集中してつながらないなど、高齢者の不安をあおるような事例が目立つ。手探りで進めざるを得ない状況であっても不安にさせない配慮が必要だ。
▼ワクチン接種を口実にした詐欺も横行し、消費者庁は注意を呼びかけている。役所の職員になりすまして口座番号を聞き出したり、「お金を出せば優先できる」と誘ったりする手口だ。ワクチン接種は全て公費で賄われるから、個人負担は不要と覚えておきたい。お金で便宜を図ってもらいたい気持ちは、やせ我慢で押さえ込むしかない。
▼そんな中、医療従事者でも高齢者でもない一部自治体の首長などがワクチンを優先的に接種した事実が相次いで判明した。やましいことはないというなら、事前にアナウンスすればよかったのだ。後付けの説明では、どうしても言い訳に聞こえてしまう。
▼危機に陥ったときにこそ、リーダーの決断や行動が問われる。お天道様に見られて恥ずかしいことはしていないか、自問していただきたい。