今週のヘッドライン: 2021年04月 1週号
「栽培もPRも日々挑戦だ。新しいことをしないと売れない時代だが、収入保険はそのリスクをカバーしてくれる。収入を担保してもらえると、安心して挑戦できる」と話すのは、鹿児島県薩摩川内市綱津町でラッキョウ3.3ヘクタールを栽培する「中村農園」の中村一郎代表(36)。大玉を栽培し差別化を狙うほか、若年層が親しみやすい早掘りのエシャレットで加工品を出荷し、ラッキョウの消費拡大を図る。2020年は新型コロナウイルスによる価格低下を避けようと、平年より早期に出荷したため、収入が4割ほど減少したが、収入保険のつなぎ融資を受け取り、経営を継続した。
総務省は3月23日、2020年度の地域おこし協力隊の隊員数は、前年度比115人増の5464人だったと発表した。農林水産省の交付金を活用した隊員数を含めた合計は5556人で、過去最高を更新した。任期終了後の動向調査では、約6割の隊員が活動地と同じ地域に定住していることが分かった。定住者には就農や農業法人で働く人も多く、地域農業の担い手としても期待されている。新型コロナの感染拡大を契機に地方回帰の流れが高まっている中で、所得確保手段の多角化などその地域での暮らしを継続できる環境を整備し、定住率のさらなる向上を図るべきだ。
農林水産省は3月24日、『中山間地域における「地域特性を活〈い〉かした多様な複合経営モデル」について』を公表した。小規模農家をはじめ多様な経営体の所得確保のモデルを示すことで、地域内外から中山間地域を維持する人材を集め、新たな担い手づくりにつなげる狙いがある。
2020年は、新型コロナウイルスによる業務用食材の需要減少や、ウンカによる西日本の水稲被害など農業分野も大きな影響を受けた。収入保険の保険金等の算定には、確定申告が欠かせない。保険金等の請求手続きはNOSAIがサポートするので安心だ。保険金等の請求方法について稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
温暖な日が続き、果樹の開花や展葉などが早まっている産地では、急な気温低下による凍霜害のリスクが高まっている。鳥取県では、灯油燃焼による昇温を実施しやすく見直した「改良燃焼法」など対策技術をまとめ、JAやNOSAIを通じて普及している。また、気象台との連携により「強い霜」の警戒情報をメール連絡するサービスを運用。農家が前日から対策を準備できるよう環境を整備している。
果樹や果菜類などの生産は、農家が導入するミツバチなどのほかに、自然界に生息する多種多様な野生昆虫が支えている。これら昆虫の活躍のためには、餌になる花を植えるなど、農村周辺の環境整備が有効とされる。日本送粉サービス研究会に所属する東北大学助教(研究特任)の大野ゆかりさんに、ポイントを教えてもらった。
【栃木支局】那須塩原市塩原で高原ホウレンソウ3ヘクタールを作付けする石井一吉さん(57)は、乗用管理機を改造し、土壌くん蒸剤の散布とマルチ被覆を同時に行える機械を自作した。製作した機械は、乗用管理機の後部にハローを取り付け、土壌消毒しながらマルチを張れるようにした。往復1回約20分で3アールの作業が完了。連作障害は発生しておらず、6月中旬に1度消毒すれば済むという。
機体前方のタンク2個から薬剤を吸い上げ、ハローに取り付けた8カ所のノズルで打ち込む。手元にバルブを設置し、片方のタンクが空になれば強い薬剤を吸い込むことなく、もう片方のタンクに切り替えられる。
〈写真:復路ではマルチ同士を接着できる〉
【岩手支局】「漁業もやっているからこそ思い付いた」と話すのは、水稲を70アール栽培する宮古市田老摂待の「せったい海藻農園」代表の畠山正広さん(46)。化学肥料の代わりに、廃棄する昆布の切れ端などを肥料として使う。今年は新たに独自の元肥作りを開始。安全・安心な米作りと収量アップを目指している。昆布は、切れ端部分を使う。「出荷前の調製作業で必ず出る。通常は捨ててしまう部分」。1年ほど発酵させ、米ぬかと1対1の割合で混ぜる。20日ほど切り返しながら、さらに発酵させると完成するという。肥料約100キロをソフトボールほどの大きさの団子状に丸め、6月上旬に圃場に2メートル間隔で投げ入れる。「投げるだけなので、作業は楽。肥料は自然に溶け出す。通常の栽培よりも根や葉がしっかりとしている」
〈写真:水稲栽培と昆布養殖などに取り組む半農半漁の生活を送ってきた畠山さん。「挑戦を重ねながら、独自の農法を確立させていきたい」〉
【広島支局】有機JAS認証を受け、ハウス6棟と露地(計70アール)で年間20種類ほどの野菜を栽培する浜井陽一さん(50歳、三次市三良坂町)。スーパーやデパートへの出荷のほか、宅配で季節の野菜セットを消費者へ直接届ける。「安全な野菜を、安心してもぐもぐ食べてもらいたい」と話す浜井さんは、2009年にサラリーマンから転職した。当初から農薬を使わない栽培を実践し、太陽熱養生処理で雑草の種や病原菌を死滅させる。また、竹チップやキノコの菌床など植物由来のものを土に混ぜ、微生物の活性を促す。
〈写真:「自然災害も心配だし、今年から収入保険に加入した」と浜井さん〉
【石川支局】「県内でこれだけの規模のフレッシュハーブを栽培している人はいない。この強みを生かしていきたい」と話すのは、中能登町能登部下の「あんがとう農園」代表・明星孝昭さん(41)。年間約300種類の西洋野菜やハーブ、エディブルフラワー(食用花)などを、農薬を使わず3.6ヘクタール栽培する。コロナ禍の中で昨年3月にオンラインショップを開設。「産地直送の新鮮で珍しい野菜が食べられる」と好調だ。300種類に及ぶ栽培品目は、一般に普及しているものではなく、西洋野菜やマイクロ野菜など珍しいものを選定した。飲食店向けの需要に絞り差別化を図っている。
〈写真:「ハーブは未知の部分が多く、その奥深さが面白い」と明星さん〉
【宮城支局】山元町高瀬の「株式会社やまもとファームみらい野」では、今年2月下旬、生産するサツマイモの香港への出荷を開始した。同社は東日本大震災で甚大な被害を受けた農地の維持活用を目的に、2015年に設立。社員11人とパート従業員40人で120ヘクタールを管理し、園芸施設でトマトやイチゴを、露地でサツマイモや長ネギ、タマネギなどを栽培する。香港への輸出は、福岡県の商社「九州農水産物直販株式会社」との取引だ。サツマイモの主要生産地である西日本で基腐病が発生したため、やまもとファームみらい野に声がかかった。常務取締役・馬場仁さん(58)は「販路の拡大に加え、商社が全量買い取るので、売り上げの影響で生じるリスクが回避できる点も魅力だった」と話す。
▼外国の方に紹介したい「和食文化」のトップに「すし」が挙がる一方、好きな和食では「煮物」がすしを抑えてトップになった。農林水産省が3月24日に公表した「和食文化のさらなる価値創造に向けて」と題する有識者会議の提言に添付された実態調査の結果だ。
▼提言は、世界に誇れる伝統文化であり、健康にも有用な和食の価値に対する認識を内外に広げ、次世代への継承を図るとともに、輸出も含めた国産食材の需要喚起を促すものだ。同省は、具体的な振興施策として、食文化関係者のネットワーク構築や郷土料理などの普及活動支援、健康有用性の根拠や簡便なレシピの発信、海外での食文化普及活動支援などを示した。
▼和食は「健康によい」「栄養バランスがよい」など肯定的な評価が多い反面、「調理が難しい」「手間がかかる」点が課題とされる。若年層ほど簡便・手軽志向が強いとされ、教育現場や子育て世代に対する働きかけが重要だ。
▼すしと言えば大半の人はにぎりやちらしをイメージするだろう。一方の煮物は、地域や家庭で食材や味付けが異なる。次世代でも好きな和食のトップ確保へ、地域や家庭での継承活動に期待したい。