▼国内の果樹産地は、他の作物の栽培が困難な中山間地域に多く形成され、基幹品目として地域経済を支える例も多い。品質は海外でも評価され、リンゴやかんきつ、桃、ブドウ、柿は輸出促進の重点品目だ。ただし、一定の技術が必要で労働時間が長く機械化が困難など課題があり、高齢化などを背景に離農が進む。先般の食料・農業・農村政策審議会企画部会では「規模拡大、新規就農・参入、生産性向上全てに課題を抱えている」と指摘された。
▼生まれ育った実家周辺の地域も平たんな土地が少ない中山間にある。果樹で安定的に収入が得られるまで地域全体が貧しく、他の農村地域から縁談を敬遠されたという話も聞かされた。歴史を調べると、病虫害の多発や台風などの災害による不作、戦争や景気の影響、競合する果物の輸入解禁による値崩れなど幾多の困難を乗り越え、現在があると分かる。
▼『日本の果物はすごい』(中央公論新社)は、日本の歴史と果物の接点を文献など豊富な資料から解き明かす力作だ。著者の竹下大学氏は、民間企業で長く育種を担当した専門家。著書は5章構成で、かんきつ、柿、ブドウ、イチゴ、メロン、桃について導入や普及の経緯、歴史上の人物との関わりを紹介する。
▼徳川家康とミカンの縁、大隈重信が開いたメロン品評会など話題を集めた努力に感心する。最多の登場は果物好きの正岡子規だ。柿、ブドウ、イチゴの各章に現れ、イチゴは庭で栽培もしたという。温暖化への適応など大きな課題にも直面する果樹農業だが、地方創生につながる潜在力は大きい。産地振興へ知恵を絞ろう。