▼NHKの朝ドラ「虎に翼」は、日本初の女性弁護士・三淵嘉子さんをモデルに、男性社会だった法曹界に飛び込んで活躍する姿を描く。時にユーモアを交えて法律と人権などの問題に切り込む展開に加え、会話や行動の意味が後で本筋につながる伏線の張り方なども話題だ。
▼現在は戦後が舞台となり、家庭裁判所の発足を軸に話が進む。戦災孤児の問題が資料映像を交えて丁寧に語られるが、個人的には主人公たちが話し合うベンチの脇でハーモニカを吹く白装束の姿にはっとした。子どもの頃に公園のお祭や神社の宵宮などで見かけた傷痍(しょうい)軍人だ。人が行き交うにぎやかさとは相いれない痛々しさを感じ、戦争の犠牲者と分かって怖かった記憶がある。
▼何の説明もなく、多くの視聴者には戦後の風景として映っているのだろう。今後も恐らく主人公たちと絡むことはないと思う。ただ、繰り返しの登場には戦争による庶民の犠牲の大きさなど何らかのメッセージが込められている気がする。主人公に近い人物が食糧管理法の違反者を裁く立場の判事となり、闇米を拒否して栄養失調で亡くなる挿話も実際の事件に基づいているのだ。
▼実在の人物がモデルとはいえ、オリジナル脚本であり、今後の展開にも興味が湧く。財産権も参政権もなく婚姻後は法的に無能力者とされた女性の扱いが出発点だ。今はどうかと突きつけるのではないか。