【栃木支局】「農業共済制度のない野菜農家や、従業員を雇用している農家は加入した方がいい。実際に減収して保険のありがたみが分かった」と話すのは、那須塩原市上郷屋の「みさき農園」園主・室井博文さん(59)。2022年に収入保険に加入した。出荷先の事業縮小で収入が5割以下になり、つなぎ融資を利用。保険金を受け取った。従業員を20人雇用し、ネギ約15ヘクタールと水稲約8ヘクタールを栽培して規模拡大を毎年続けていた。現在はネギの作付けをやめ、3人で水稲と二条大麦、大豆を約30ヘクタール栽培する。主な取引先の青果仲卸業者にネギを週約6万本出荷していたが、新型コロナによる需要減で取引がなくなったという。「4月に取引停止の話をされてから実際に出荷できなくなるまで、10日もなかったと思う。収入の8割を占めていたため、売り先を必死に探したが、週に3万本しか出荷できなくなってしまった」と室井さん。ネギは播種から収穫まで約7カ月かかる。「前年より手をかけてきたネギを処分するしかなく、本当に悔しい思いをした」と唇をかむ。加えて、6月にはネギの皮むき機が故障。「通常なら1週間で直るはずが、世界的な半導体不足の影響で部品が欠品し、出荷が1カ月以上停止した。ネギはやむを得ず、すき込むしかなかった」という。18年から収入保険の推進を受けていた。「友人や知人とも度々話題に上り、類似制度と比べたりしていたが、わが事とは考えていなかったと思う」。決め手になったのは担当職員の熱心な推進だった。「『野菜農家、特に室井さんの経営には収入保険が合っている』という話だった。従業員を雇っているし、経営安定のためにと加入した」と当時を振り返る。つなぎ融資の説明も受けていた。「つなぎ融資を使えると聞いたときはホッとした。出荷ができなくても従業員の給料は支払わなければならない。連絡をしてから1カ月ほどで受け取れたので、本当に助かった」と笑顔を見せる。「給料の支払いに作業機械のローン返済もある。収入保険に加入していなかったら、資金を取り崩した上に銀行から借り入れする事態だった。自ら出荷先を見つけている農家は、取引先と共倒れになる可能性もある。大きい農家であればあるほど、もしものときのメリットが大きい」と力を込める。
〈写真:「経営安定のために必須の制度だ」と室井さん〉