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肉用牛繁殖経営を低コスト化・省力化 離島の畜産支える公共牧野【8月2週号 島根県】

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 【島根支局】西ノ島町では1963年に牧野管理規定が定められ、牧畑〈まきはた〉が行われていた農地が公共牧野として活用されるようになった。地区住民であれば土地を所有していなくても公共牧野で放牧することができ、現在は12の牧(約1673ヘクタール)で31戸が599頭の牛を放牧している。隠岐諸島では昔から牧畑と呼ばれる隠岐固有の農法が取り組まれていた。牧畑は、起伏が激しい隠岐諸島で、土地をうまく活用し、食料を安定して自給するために生まれたという。起源は明らかではないが、1607年の江戸時代の検地帳に牧畑が記録され、400年以上の歴史がある。牧畑は四つ以上の牧区を4年サイクルで放牧・栽培に取り組む。順番は、牛馬生産、土壌を回復するための放牧、主食の麦栽培、地力を回復させるための豆類栽培、救荒作物のアワ・ヒエ栽培で連作障害を避けていた。同町で牛飼いをしていた堀川栄一さん(74)は「牧畑の牧替えのときには、地区の子ども総出で牛を追いかけたものです」と話す。牧畑の土地はほとんど個人の所有で、耕作と採草は所有権に基づき行われていたが、戦後の食料事情の好転に伴い、現在では耕作しなくなった。しかし、放牧は昔から所有権、耕作権に関係なく地区住民であれば平等に利用でき、現在でも牛馬の放牧風景を見ることができる。今では隠岐ユネスコ世界ジオパークの一部にもなり、同町の観光資源として一役を担う。2022年に同町内の農家の牛を譲り受け、新規就農した世良哲也さん(42)は「公共牧野という制度があったことも就農に踏み切れた理由の一つです。放牧は経験が必要で、地域の先輩農家の支えもあり、なんとかやっています」と話す。隠岐諸島の畜産は、牧畑という歴史的背景をもつ公共牧野があることで、放牧を主体とした飼い方が可能だ。離島というハンディキャップを抱えた隠岐諸島の畜産には、肉用牛繁殖経営を低コスト化・省力化でするための公共牧野は欠かせない重要な要素となっている。

〈写真:放牧場内で餌やりをする世良さん〉