【岩手支局】雫石町上野新里の「中屋敷ファーム」では、地元産の飼料だけを与えた肉用牛の育成に取り組む。農薬を使わない飼料用作物の生産や、栄養バランスを考えた飼料の配合で、飼料の原料となる作物の流通活発化と肉質向上の両立を目指す。同ファームは、株式会社重次郎の中屋敷敏晃代表取締役(45)が、2013年に同社の畜産部門として立ち上げた。現在は従業員3人で500頭ほどを管理し、牧草などの飼料用作物を約130ヘクタールで栽培する。中屋敷代表は「輸入飼料に頼る畜産に、以前から疑問を持っていた」と話す。環境問題や食料問題が深刻になり、餌の入手が今後は困難になるのではないかと考え、自社で飼料を賄う方法を模索した。「輸入飼料は農薬の使用量が多く、近年は価格が上昇している。飼料の自給に挑戦し、安全・安心でコストを抑えたいと考えた」。19年から東北農業研究センターと共同で、農薬を使わない飼料用大豆の栽培方法の研究を始めた。開発した大豆に自社産の牧草やデントコーン、地元の米ぬかと酒かすなどを配合する。「大豆は葉や茎も使うため、タンパク質以外の栄養素も豊富。栄養バランスを整えた高品質の飼料が完成した」。すべてこの飼料に切り替えたところ、肉質が向上したという。同ファームでは、肉用牛としてジャージー種も飼育する。中屋敷代表は「乳牛の雄は価値が低いが、肉質を向上させれば評価されるはず」とみている。農家から高値で買い取り、自社飼料で育成したジャージー牛は、ヘルシーで肉のうまみを感じられると評判で、県内外の飲食店で利用されるようになった。「乳牛の雄の価値が上がれば、農家の利益につながり、地域が潤う一端になる」と中屋敷代表。「畜産農家の減少は地域の課題。餌の原料の栽培を地元農家に委託し、農家の利益につなげたい」と意気込む。
〈写真:「次世代でも継続可能な畜産の方法を確立させたい」と中屋敷代表〉