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雇用力向上、耕作放棄地解消へ 期待のジネンジョ【2月2週号 静岡県】

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 【静岡支局】「農閑期の雇用力向上や耕作放棄地解消のために『ほんやまじねんじょ』を栽培している」と話すのは、山翠園藤田製茶4代目の藤田匠さん(37)。静岡市葵区新間で13年前に家業を継ぎ、茶4.8ヘクタールとジネンジョ1.2ヘクタール、トウモロコシ30アールを栽培する。藤田製茶は安倍川と藁科川流域の水はけの良い山間地で、県内の茶産地で最も古い歴史を持つ「本山茶」を栽培・販売してきた。しかし、高齢化と後継者不足に伴い、安定した収入確保につながる新たな作物を検討。試行の結果、茶と同様、水はけの良い環境が適したジネンジョにたどり着いた。仲間の農家十数軒と共に立ち上げた研究会で栽培に取り組み、現在は従業員数人と作付面積を少しずつ広げている。ほんやまじねんじょは、凹凸が少なく、白く、風味豊かで粘りが強い。あくが強くならないよう、養分の少ない土を入れたビニール筒の中で真っすぐ育つよう栽培する。「2015年から3年間、毎年失敗の連続。水をやり過ぎたり、逆に減らし過ぎたりして、思い通りの大きさや形に育たず、秀品率が3割を切ったこともある」。工学部出身の藤田さんは、これまでの反省をもとに大学時代に培った論理的な思考を生かし、センサーで水分量を測定し給水をコントロールしたり、栽培と販売に関する将来的な目標を算出したりしている。20年から加入する収入保険については、現状と今後の営農計画を照らし合わせながら、加入初年は掛金の少ないプランを選択し、年を追うごとに補償対象の大きいタイプに移行した。22年9月には台風15号でジネンジョ約千本が流された。残ったジネンジョは大きくならないものが少なくなかったため、収入保険のつなぎ融資を活用。「何とか借入金を抑えることができた。収入保険に加入していたおかげで助かった」と振り返る。現在は年間約3万本を安定生産できるようになり、20年には、県が農林漁業の経営発展に先進的に取り組む団体を表彰する「ふじのくに未来をひらく農林漁業奨励賞」を受賞した。「昨年の台風のように、いつ何が起こるか分からない。見通しを立てて経営しているが、思い通りにいかないことも多い」と藤田さん。「収入保険も活用しながら、高品質で安定した生産を追求し、皆さんにおいしいほんやまじねんじょを味わってほしい」と笑顔を見せる。

〈写真:ほんやまじねんじょを手に藤田さん。ビニール筒を使うことで真っすぐに育つ〉