▼最近聞くようになったエシカル消費(倫理的消費)について、正直なところ分かりにくいと思っていた。しかし、『シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ』(新潮新書)を読み、納得できた。著者は、イタリアで始まったスローフード運動を日本に紹介した島村菜津さんだ。
▼本書は、シチリアをはじめイタリアの人々がマフィアとの関係を絶とうと活動してきた経緯を追う。映画「ゴッドファーザー」で定着したシチリアとマフィアのイメージを変えたいとの思いが根底にある。
▼1980年代以降、多くの企業家や判事、警官などが殺される苦難の連続は目を覆いたくなる。ただ、先人の遺志を引き継ぐ中で反マフィア運動の「さよなら、みかじめ料運動」が生まれ、加盟店や消費者のネットワークづくりが進んだ。
▼消費者はマフィアと関係しない企業の商品や飲食店を選んで消費し、運動を応援する。マフィアから押収した農地で始めた有機農業の支援が広がり、国で一番の有機農業地域になっているという。商品の背後にある貧困や差別、環境などの問題に目を配る消費者の行動が広がれば、社会を動かす力になる。