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防風林「暮らしの記憶「現代絵農書」の価値【2022年12月3週号】」

 ▼以前、学童クラブのPTA行事で餅つきを企画した際、きねと臼は借りることができたが、手順を知る人が少なく、準備に苦労した。子どもの頃に手伝わされ、餅のつき方は分かる。しかし、もち米の準備など十分な知識がなく、企画した親たちが故郷の親に聞くなど手間取った。最近は自分の実家でも餅つきはしない。一度やめると徐々に忘れていくだろう。
 ▼日本の農業は、高度経済成長期を境に稲作などで機械化が進み、農村や農作業の風景は大きく変わった。近隣農家と一緒に作業した田植えや稲刈りなどの風景も今は見ることもない。ただ、探してみると高度経済成長期以前の農村の日常や作業風景を描き残した人が何人もいる。
 ▼『庶民が描く暮らしの記憶』(清水ゆかり著)は、農村出身の庶民が描いた生活や農業の記憶画を「現代絵農書」と名付け、歴史学や社会学の観点で価値を考察する。博士学位論文として提出した資料を基に自費出版したそうだ。農業共済新聞の新年号に掲載した版画や絵の作者の名前もあり、うれしくなる。
 ▼大学の卒業研究の資料調査で千歯こきでの脱穀などが描かれた1枚の絵を見つけ、強く引きつけられた。卒業後も情報収集し、現代絵農書の記録を続けているという。しかし、出版や地元の資料館などに収蔵される作品は別として、作者が亡くなると公開や継承が困難との指摘も。貴重な現代絵農書を残す手だてはないものか。