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防風林「地域発の起業に期待する【2022年12月1週号】」

 ▼総務省によると、都道府県や市町村の移住相談窓口などの2021年度の相談件数が、調査を開始した15年度以降で最多の32万4千件になった。コロナ禍を契機に都市部の若い世代を中心に地方回帰の動きが強まっていると分析する。つい新規就農も選択肢にと期待してしまうが、仕事や暮らしの考え方は人それぞれ。まずは地方を移住先に選んでくれるだけでよしとすべきか。
 ▼経済エッセイストの藻谷ゆかり氏の近著『山奥ビジネス 一流の田舎を創造する』(新潮新書)には、本場イタリアで世界大会のチャンピオンになり、故郷の町で人気店舗を営むジェラート職人、地域に根を下ろしたものづくりで全国に30店舗の直営店を展開し、武家屋敷を改装した宿経営も手掛ける衣料・雑貨企業など先進事例が登場する。どの経営者も東京などの大都市ではなく、その地域でビジネスをしたいと起業して成果を積み上げた。人材を呼び、新たなビジネスを生むなど周囲にも影響を及ぼし、食材の提供など農業との関わりも広がっている。
 ▼藻谷氏によると、成功する山奥ビジネスのコンセプトは(1)ハイバリュー・ローインパクト(2)SLOC(3)越境学習――だ。(1)は、価値が高い財やサービスを生み、環境や土地の文化への負荷が低いこと。(2)は、英語のスモール、ローカル、オープン、コネクテッドの頭文字で、小さく地域的な企画・事業がオープンにされてつながり、他の地域にも展開されること。(3)は、自分が育った土地を離れた人が新たな技能や価値観を身に付けること、などと解説する。
 ▼人口減少と少子高齢化が進むと、将来的に全国の約半数の自治体が存続できなくなる消滅可能性の恐れから、地方の市町村は移住・定住に力を入れる。経済的な自立を支える産業の創出は大きな課題だ。藻谷氏は、水や景色などの環境や歴史、古民家など地域資源を活用する観光業を重要視する。鍵は越境学習した人材のUターン推進にあるという。