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土作り・対面販売・地元密着 父が築いたブランド守る【5月1週号 山形県】

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 【山形支局】長井市九野本〈くのもと〉の「色摩〈しかま〉園芸」では、「九野本きゅうり」のブランドを築き、新鮮な野菜の対面販売と地域密着型の農業に取り組む。代表を務める色摩尚宏〈たかひろ〉さん(25)は、弟の保洸〈やすひろ〉さん(23)とパート10人で、ハウス13棟(80アール)でキュウリを中心にトマト、「くきたち菜」を栽培するほか、丸ナス、トマト、キュウリの苗などを生産する。九野本きゅうりは、皮が柔らかく甘みがあり、パリッとした食感が特徴。サラダや漬物のほか、みそを付けて丸ごと食べてもいいと評判だ。ハウスに隣接する直売所には多くの人が連日訪れ、朝収穫したキュウリが午前中に完売するという。バラ売りのほか、贈答用の箱詰めも人気だ。「『1本食べたらもう1本食べたくなる』『また買いに来た』など、お客さまから多くの声をいただき、栽培する情熱につながる」と尚宏さん。消費者とつながり、新鮮な農作物を提供できる対面販売を最も大切にしているという。キュウリは7割を直売所で販売するほか、市場経由で主に関東方面に出荷する。尚宏さんは子どもの頃から父・清隆さんの農業に向き合う姿を見て育ち、日本一のキュウリ農家を一緒に目指したいと考えるようになった。県立農業大学校(現農林大学校)では野菜栽培を学び、21歳で父が経営する色摩園芸で就農。実践の農業を学んでいた23歳の時、父が突然他界した。「農業の師匠であり、良きパートナー、一番の理解者だった父が亡くなった時は、ショックで何も手に付かなかった」。失意の中にあった尚宏さんだったが、消費者からの励まし、祖父や母の助けが支えとなり、父が大切にしてきた九野本きゅうりのブランドを守り抜こうと一念発起した。会社員として働いていた保洸さんを呼び寄せ、父から受け継いだ「野菜は土作りが大切」という信念を胸に、有機肥料(米ぬか・骨粉・鶏ふん・菜種油かすを混ぜて発酵)で土壌に活力を与え、安全・安心な農作物を栽培する。地域住民の支えに感謝しているという尚宏さんは、「父が取り組んできた地元の小学生を対象にしたキュウリの収穫体験や、給食にみそとキュウリを提供する活動を今後も続けていきたい」と地元への恩返しを忘れない。「顔の見える対面販売に引き続き心掛け、地域に根ざした農業経営で、お客さまに喜んでもらえる農作物を作っていく」と意気込む。

〈写真:「手間を惜しまず、生育に合わせた作業を心掛けている」と尚宏さん〉