【埼玉支局】「『富の川越いも』をたくさんの人に知っていただき、おいしいサツマイモをお届けしたいです」と話すのは、三芳町上富で「いも早川」を営む早川忠男さん(62)。伝統的な落ち葉堆肥農法に取り組み、85アールでサツマイモ「紅赤」「シルクスイート」「ベニアズマ」「べにはるか」を生産する。落ち葉堆肥農法は、平地林を育て、集めた落ち葉を熟成させ堆肥にし、それを畑に投入して土壌を改良する。江戸時代から300年以上続く農法で、2017年には「武蔵野落ち葉堆肥農法」として日本農業遺産に認定された。早川さんはコナラやクヌギなどの広葉樹の落ち葉を年明けごろに収集。その後は堆肥場に運び、ぬかなどと混ぜ微生物の働きで発酵させる。堆肥になるまでは2年ほどかかるという。落ち葉堆肥を施用した畑の土は、足を踏み入れると押し戻されるような弾力があり、サツマイモ栽培に適している。スコップなどを使わなくても手で掘り返せるほど軟らかいため、収穫作業がしやすい。水はけが良く軟らかい土で育ったサツマイモは、根をしっかりと張り養分を吸い上げ、広々とした畑で夏場に成長し、秋に向かって芋を太らせる。収穫後は少し寝かせ、追熟させることで甘味を引き出す。早川さんは「三芳町川越いも振興会」の会長を務める。振興会では、サツマイモの女王と称される紅赤を後世に残すことを目的として、1992年に29軒の生産農家で組織された。紅赤は、品種改良されたサツマイモが無い時代から甘くておいしいと評価され、親しまれてきたが、栽培が難しく収量が少ないため希少品種となっていた。落ち葉堆肥をふんだんに使用した畑で紅赤を栽培すると、色や形、味のそろった良いものを作るこができるという。歴史が育んだ土で作る川越いもは、滋味が深く、色や形に優れたサツマイモとして認知されている。地元だけではなく県外から買いに来る客も多い。早川さんは「コロナ禍が収束したら、イベントの開催や産業祭への出店を積極的に行っていきたいですね」と話す。
〈写真:「サツマイモを購入されたお客さんが『甘味があってとてもおいしかったよ』と再び買いに来てくれたときが何よりもうれしいです」と早川さん〉