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防風林「命と向き合う わな猟師【2020年9月1週号】」

 ▼京都市在住のわな猟師、千松信也さんを追ったドキュメンタリー映画『僕は猟師になった』が公開中だ。くくりわなを使い、イノシシやシカを家族と知人で分ける頭数だけ捕獲し、自らさばいて食べる。命を奪う代わりに、骨も含めて無駄なく利用する。
 ▼千松さんには以前、本紙で「わな猟のコツ」を執筆いただいた。狩猟は、仕事でも趣味でもなく、生活の一部という。お金で肉を買うのと同様、技術と労力を駆使して肉を得るのだ、と。わなにかかったイノシシにとどめを刺す際の緊張感は、映像でも相当なものだ。木の棒を手に向き合う姿が、剣客同士の真剣勝負のように見えた。
 ▼イノシシなどの獣害対策は、農業や生活を守るための重要課題だ。被害の状況を踏まえれば、狩猟者の確保や最新技術による捕獲装置の開発も必要だろう。しかし、捕獲した動物の大半はそのまま廃棄される現実もある。命と向き合う千松さんの暮らし方を知ると、人の都合で殺処分するだけの獣害対策は、正しい答えとは思えない。
 ▼人と野生動物のすみ分けや共存方法を探ることはできないか。命を奪う対策から共に生きる対策へ、知恵や技術を結集する価値は十分にあるはずだ。