▼その光景は、断崖が続く海岸沿いを行き、小さな砂浜に出たところで目に飛び込んできた。岩手県田野畑村にある震災遺構「明戸海岸防潮堤」だ。ワッフルのような形状をしたコンクリートの塊が折り重なっている。
▼東日本大震災の際に津波で決壊した防潮堤を被災当時のまま保存する。近寄ると見上げるほどの高さがあり、海中から打ち上げられたという消波ブロックも一角にある。人の想像が及ばない、圧倒的な自然の破壊力を実感した。山側には、さらに高さと幅を増した新たな防潮堤が完成している。
▼国土交通省東北地方整備局と青森、岩手、宮城、福島の4県、仙台市は、協議会を設立し、「震災伝承施設」登録制度を運営する。駐車場や案内板を整備する震災遺構や慰霊碑、モニュメントなどの施設を登録し、東日本大震災の被害実態と教訓を後世に伝え、防災力強化を図る方針だ。明戸海岸防潮堤もその一つ。現在、192の施設が登録されている。
▼発災から8年を過ぎたいまも復興事業は続いている。地域で議論となっているのが、震災遺構を残すかどうかの判断だ。保存を求める意見がある一方、地元で生活する人々のつらい記憶と重なるため、多くの犠牲者を出した建物などは撤去を求める意見も多いという。
▼震災遺構の保存については、地域の結論を尊重する。ただ、東日本大震災を経験した私たちには、震災の記憶と防災意識を次世代に継承する責務があると、肝に銘じておきたい。