▼人が自然災害を防ぐ手だてはなく、堤防造成などせいぜい被害軽減や避難する程度。猛暑・台風・地震の災禍は「地球の暴走」だ。
▼人が生みだした機械・装置の暴走もまた、人命や財産を奪う重大事故となる。『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』(ジェームズ・R・チャイルズ著)では、携わった人間の判断や行動が大事故発生を導き、また、被害を防止・軽減した事例を解説する。
▼ある航空機事故は、空気取入口のキャップをしたまま離陸、空気センサーが感知せずに誤表示がもとで墜落した。ある油田掘削船は、高波で電気室の窓が割れて浸水し、電気系統がショート。さらに甲板の開口部から入った海水が、片側の水平維持タンクになだれ込み、船体の傾きに対して作動しない計器類の誤表示を妄信し沈没。
▼この最新型掘削船は緊急時でも対応可能な安全設計とされた。だが、手動操作への切り替えに数工程を要するうえ手順書に記載もなく緊急時の訓練もなかった。検証の結果、原因は人災とされた。米国のある原発事故では、機器不調を訴える作業員の小さな声が届かず発生。老熟練技術者がこの指摘に気づき、最悪の事態を回避する。
▼チャイルズ氏は「科学技術には規律が必要」とする無事故を貫いた管理者の言葉を引用する。農業にロボットや人工知能が導入される今、万が一の暴走を制止するのは農家。快適さ便利さに溺れる"恐れ"を知り、使う"規律"作りが求められる。