▼静かな流れと豊富な生物の共生が流域住民の生活を支える母なる河川も、ひとたび豪雨で牙をむき荒れ狂う暴れ川に変貌する。人は太古の昔から相反するその様相に、恐れと畏敬の念を抱き接してきた。
▼気象庁が大雨特別警報で使う「今まで経験したことのない大雨」との発令は、尊い人命や農作物を飲み込むほどの大災害に対し、救済の福音となることなく、空虚な警鐘でしかなかった。
▼平成30年7月豪雨による堤防決壊で大被害に遭った岡山県倉敷市。河川本流の急激な増水により支流が合流できずに停滞、再び上流方向にさかのぼる現象を「バックウオーター」であると知った。戦国期、急峻な甲斐国(山梨県)を流れる釜無川は、支流との合流点周辺地域が度重なる氾濫に襲われた。そこで治水に取り組んだのが武将・武田信玄。
▼支流を分水し水量を減らすとともに、合流点に大石を置くことで水勢を弱める。また木杭を三角形に組み、石詰めの竹籠を重しとする「聖牛」という簡易な構造物で水勢の軽減を図り、本流・支流の合流を容易にして、激流の持つ破壊力を抑えた。この信玄堤は、現在でも治水効果を見せている。
▼森林の"かん養(保水)力低下"が山の土砂崩れを起こし、大量な濁流を河川に供給して増水と氾濫が連鎖する。土木技術で「水を制する」のも大切だが、森林に目を向け「水循環機能」を回復させなければ、未来永劫(えいごう)にわたり同じ悲しみや怒りにふれなければならなくなる。