▼編集部あてに月1回ぐらいの割合で、はがきの裏と表までを使い、日ごろ見聞きしたことや折節の思いなどを送ってくださる読者がいる。
▼残念なのが、住所やお名前の記入がなくて返信やお礼の手紙ができないこと。消印は鹿児島県の南に位置するある市の郵便局のもの。文字の姿から女性なのではと想像。お名前が書き記されていないのは、本欄担当者につぶやくことで、「気持ちも晴れやかになれるからなのかな?」との判断。
▼中国地方の60歳代後半の水稲農家さんは、作期や食味の異なる十数品種を作付けて、自宅近くの店舗で直売していた。そんな姿勢に共感しながら取材を進めていた終盤、「最近は体力が衰えて、そろそろ引退すべきかな」とつぶやいた。「これほど立派な農業をされていてお元気そうなのに何を言うのですか」と強めの語気で反論をしてしまった。
▼その数週間前に聞いた、80歳を過ぎても「担い手」を自負する老農家の言葉を伝えなければと思ったからだ。「高齢者だからこそ、楽するための新技術を導入するのは当然ではないか」と。「負けてはいられない。さっきの引退話は撤回だ、もう少し続けようと思う」。
▼農業・農村を経済性と効率化で解決できるとする〝上から目線〟の規制改革と銘打つ論理が、地域の人々の心に光明を照らさないのは、農村から学びも返しもしていないから。知ったかぶりの専門家は、現場で悩んで再起する農家の姿を知るよしもない。守るべきは農家の意欲のはずだ。