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防風林「段々畑修復からみる高齢化と農村整備の現状【2016年8月2週号】」

 ▼群馬県の山村、傾斜した段々畑の石垣補修作業に立ち会ったときがある。そこは、コンクリートブロックを使わず、小ぶりな自然石を積み上げる伝統的な野面積みだった。
 ▼大雨が降った後は、所々が崩れてしまうこともあり補修は大仕事だ。崩れた箇所が広範囲の場合は、業者を交え集落民総出で積み直す共同作業が欠かせないのだ。応援の学生も加わり作業を開始。自然石を積む経験のない人に、「石の鼻っ面を土側の斜面に対してこうやって」と説明するのだが、石に顔があるわけでなく石とにらめっこだ。
 ▼石垣の修復技術をもつ業者が少なくなり「何年続けられるか?」。それが住民らの悩みだった。先般の地震で崩壊した熊本城の石垣修復も、数十年が必要とされる。ドリルも重機もない時代に積んで築いた石垣を、超高層ビルさえ容易に建設できる技術をもってしても難しいのだ。
 ▼中国の四大奇書の一つ『水滸伝(すいこでん)』(北方版)にも、石垣造りの名手・陶宗旺(とうそうおう)が、梁山泊防御戦で敵に攻め込まれた窮地に、石垣を崩し撃退する場面がある。平和な時代ならば農地の基盤整備に力を注いでいたことだろう。
 ▼老朽化した用排水路や施設の更新・補修を望む声が大きい。旧政権で大幅削減された公共事業費のツケが、今の地域営農の停滞を招いている。整備計画から時を経て見積もり費用は大きく変化し、計画自体の見直しが迫られる地区も多い。仕切り直しする猶予はない。高齢化とともに共同作業も難しくなり、農村整備は急を要する。