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防風林「多様な人材による田園回帰はゆっくりと進んでいる【2016年6月1週号】」

 ▼北関東の自然豊かな小さな町。駅前から続く商店街の昼下がり、往来する人は少なく店舗の大方はシャッターを閉じていた。昔ながらの肉屋も八百屋も衣料品店も個人経営は厳しい。
 ▼国道沿いに出店した大型店舗に客足を奪われた商店街の一角、しゃれたガラスの置物の奥にコーヒーをいれる男性の姿が見えた。広い空間に木製のテーブル、黒光りした天井の梁(はり)や柱が古民家風で落ち着ける雰囲気だ。
 ▼十数年前に廃業し荒れ放題だった店舗を借り、改装後に喫茶店を開店したという。入口近くの棚には、籠に盛られた色鮮やかなパプリカやトマトなどの野菜が入っていた。都会から移住した女性が近隣の畑で営農を始め協力する意味で置いている。聞くと、店主も町出身者ではなく、都市からの移住者だと話す。
 ▼この日、訪問した方も近畿圏出身だった。清浄な空気と水が微生物資材の培養に適しているとの理由から数十年前に定住した。周辺には、有名な大滝や解禁期間になるとアユ釣りでにぎわう清流がある。この日、国道から逸(そ)れた山道を車で数分、夕暮れの茜(あかね)色に染まった空を背にして、一軒の和食料理店に向かった。周囲の風景は山並みと野菜畑そして静寂だ。地元食材を使った料理をふるまっている。
 ▼この店の主(あるじ)も県外から移り住んだ。人の往来数やにぎわいだけが活性化の尺度ではない。多様な人材が田園回帰などで農村に定住し、自然や心通える住民と交流できる環境も地域資源。「地方創生」はじわりゆっくり進んでいる。