ヘッドライン一覧 購読申込&お問い合わせ 農業共済新聞とは? 情報提供&ご意見・ご感想 コラム防風林

防風林「歯車が変えた高能率化には研究者の苦悩が【2016年4月2週号】」

 ▼稲作農家が使う田植機の移植装置には、回転軸が1回転するたびに2株を植え付ける「ロータリー式」が採用されている。旧世代の田植機は、駆動するアームで1株ずつ移植する「クランク式」が主流だった。
 ▼現装置により、作業能率の向上と同時に、速度を上げても振動が少なく欠株率が大幅に低減することができた。「高速田植機」として農業機械化研究所(現・農研機構・革新工学センター)が開発。農機各社から発売される新型田植機には瞬く間に、ロータリー式が採用されたのだ。
 ▼この先進的技術が大規模稲作への適応技術として着目されたわけだが、「偏心歯車」という新機構の開発がなければ、現在の田植機の作業能率は従来のまま、稲作の移植体系さえ見直されていたかもしれない。
 ▼着想は、1本の棒を中心点で1回転させると両端を接地できることだ。だが、通常の歯車では苗を直立させられる爪の楕円(だえん)軌跡は描けない。開発担当者は悩み抜いた。ひらめいたのが、歯車の中心点をずらした偏心歯車の組み合わせ列によって、苗株を直立させることができる理想的な円孤を描いてみせたのだ。
 ▼開発を担当した山影征男さんは、高速田植機の市販化を見届けてはいない。論文さえ書き残す間もなく急逝したためだ。同時期に開発された汎用(はんよう)型コンバインとともに、大規模水田営農の扉を開く機械化体系の一翼を担う。歯車が作業を変えた歴史を語り継ぐ研究者は少なくなった。これも古参記者としての責務かもしれない。