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防風林「散るサクラを再び戦意高揚に使われぬよう【2016年4月1週号】」

 ▼卒業や入学、定年退職、就職、転勤など3月中旬から4月にかけて、人生の転機を迎える人や、アルバムを開き感傷にふけってみたくなる方もいよう。
 ▼気象庁が都内のサクラ開花日を発表して以降、花冷えが断続的に続き観賞期間が延びようやく満開。桜前線は順次北上し春が来る。サクラの代表「染井吉野(そめいよしの)」は満開後に風で散り、花吹雪は祝賀や別れの舞台を演出、人は風景に酔いまた涙するのだ。
 ▼東京・八王子の森林総合研究所・科学園には、早咲きの「寒桜(かんさくら)」や5月上旬まで咲く「深山桜(みやまざくら)」など約250種のサクラが植栽され、枝垂れ系や八重咲き系、花の色も多様で黄緑色した「御衣黄(ぎょいこう)」などもある。種類は400以上もあるといわれ、確かな数は把握できていないらしい。
 ▼わが国には、花が散る潔さを戦意高揚に駆りたてた過去を持つ。人間爆弾に「桜花」と命名したのはサクラも迷惑千万だったろう。開花予想用の標準木は靖国神社にあり、花も実もつけず戦火の銃弾に倒れた兵士に、哀悼の念を抱かずにいられない。
 ▼日本で一番古いとされる山梨県北杜市の「神代桜」は、落葉以降の冬期は生命の息吹を感じさせない老巨木だ。だが、春に枝の隅々まで着花し散ると同時に新緑を萌芽する生命力は、五十路半ばの身には感慨深く千数百年も続く生命の循環に神秘ささえ感じる。二度咲く「不断桜(ふだんざくら)」は人生の再出発を祝福する。サクラを二度と愚かな戦争に協力させる愚行があってはならない。わが国を代表する植物ならなおさらだ。