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防風林「聖徳太子と四半世紀前の出来事は同じ伝説になるかも【2016年2月4週号】」

 ▼古本屋でふと一冊の歴史小説に目が止まった。『悪行の聖者 聖徳太子』(篠崎紘一著)だ。太子・厩戸皇子(うまやどのみこ)は天皇継承権を持ちながら摂政の位に甘んじ、仏教による国家の安寧を導くが、物語では父・用明帝の敵討ちを敢行、殺生と出生の秘密に苦悩する。仏は心の中に存在すると悟り物語は終わる。
 ▼若者の多くは福澤諭吉の1万円札しか知らず、十七条憲法や冠位十二階を制定し、わが国の中央集権国家体制を築いた偉業もおぼろだ。聖徳太子の有り難みは高年齢層の者だけに残る。
 ▼「十数人の異なる訴えを理解し適切に回答した」「神馬で空を駆けた」などの伝説が残り多くの謎を秘める歴史上の人物だ。平安期に太子信仰が広まり神としても祀(まつ)られた。その真偽のほどは千数百年遡(さかのぼら)ねばならない。
 ▼巻末の解説文まで読み進め驚いた。作者は、農業簿記など国内で最も普及するパソコンソフトを扱う会社の社長を歴任、二十数年前にお会いした記憶がある。当時、農業へのパソコン活用は、「先進農家の玩具」程度の認識しかされない時代だった。
 ▼今や複数の難問も携帯端末でネット検索すれば、聖徳太子も顔負けだ。ファクスもなかった時代の話を、文明の利器を使いこなす若者に話しても、たかだか四半世紀前のことなのに、聖徳太子と同じ伝説上の話のように思えるのだろう。