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防風林「変わりゆく風土、次世代に向けた転換を【2016年1月2週】」

 ▼昨年の晩秋も終わりごろ、北陸新幹線開業後、初めての飯山駅に降り立った。目前に広がる風景と十数年前に訪れた際の記憶が重ならず違和感を覚えた。在来線の旧駅から少々離れた位置に新駅が完成したためだが、駅周辺整備や近隣観光地へのターミナル化などで往来客も増え、肌で感じる街の空気が以前と微妙に変化したかのよう。
 ▼この地では春になると、菜の花で埋めつくされる丘から蛇行する千曲川が眺望できる。前回も今回の訪問も紅葉が落葉した時期で、季節には恵まれない。この川は長野県から新潟県境に入ると信濃川に名を変え日本海に注ぐ。その河口付近で育った者には、異なる流域環境や「風土」でありながら、河川の水流でつながる近しさを感じてきた。
 ▼地域によって異なる自然や人の暮らし向きが、固有の風土を形づくり、新たな開発などで微妙に変化していく。風土を辞書で引くと「人間の文化形成などに影響を及ぼす精神的な環境」と説明する。『古寺巡礼』の著者・和辻哲郎は論文で、風土が人間の深層心理や行動に大きく影響を与えるという。
 ▼自然災害の発生後に被災者が「60数年も住んできて初めての経験」とのコメントを耳にするが、悠久の歴史の中では100年さえも瞬(まばた)きにも満たない時の流れでしかない。伝承や地名の一端にしか刻まれない過去の出来事は多い。土地の気候や地勢、歴史を知りはぐくまれた風土で自然災害回避が可能なのかも。
 ▼交通や情報網の発展で金・物・心の価値観は画一化し地域的な差異はほとんどない。だからこそ伝統野菜や農法、生活様式、祭礼、文化などを地域資源として掘り起こし、次世代に向けた〝新たな風土〟に転換する活動が大切なのだと思う。