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瑞穂の里にいのちはめぐる(2-5面・新年号特集)【2016年1月1週号】

 「瑞穂(みずほ)の国」と謳(うた)われたわが国は、太古の時代から葦原(あしはら)を水田に拓(ひら)き、暮らしや文化、技術をはぐくみ伝承し、農耕の中で多様な生き物たちと共生してきた。しかし日本農業は今、農地集積による効率化や企業的経営での所得向上が強く求められている。たとえ時代が遷(うつ)り変わろうと守るべき根幹があるはずだ。「循環」が置き去りにされた農地には、人や作物、家畜の生命(いのち)は再生しない。「瑞穂の里にいのちはめぐる」――田んぼからの恵みを生かし新展開に挑む水田営農の現場から、今後のあるべき農業の姿を読者の皆さんと考えてみたい。

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悠久のむら守る 原風景に消費者も共感 ―― 岩手県一関市・本寺地区地域づくり推進協議会
〈写真:奉納する米俵などを担ぎ、約90人が列をなして中尊寺まで歩く〉
160101_01-1.jpg 中世期から変わらない農村景観を今に伝え、国の重要文化的景観に選ばれている岩手県一関市本寺地区では、住民組織「本寺地区地域づくり推進協議会」が景観や文化を次世代に継承し、永続性のある地域振興を目指して活動している。圃場整備は、作業効率と景観保全を両立させ、小区画の水田や曲がりくねった畦畔(けいはん)を残し、農道は軽トラがぎりぎり通れる幅員2.5メートルを確保した。1口3万円の会費で天日乾燥米40キロを提供する「骨寺村荘園米オーナー」を募り、田植えや稲刈りなどのイベントで人を呼び込む。地域が誇る農村の原風景を心のよりどころに、営農維持に努めている。

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自家産米を切り餅加工 仲間と一歩ずつ ―― 長野県松本市内・色男の力もち
〈写真:「色男が作った餅です」とメンバー。右から山田さん、田中さん、髙山さん、塩原さん〉
160101_01-2.jpg 長野県松本市内で水田営農を展開する"色男たち"の切り餅が人気だ。グループ名にもなっている「色男の力もち」は、30代の稲作農家4人が結束し、生産する水稲もち品種「わたぼうし」を加工・販売する。米価下落や環太平洋連携協定(TPP)など農業を取り巻く環境が変化する中、付加価値を付け、農閑期の収入確保につなげるのが狙いだ。水田作業が落ち着く11~12月に玄米6トン分を加工。白餅だけでなく、黒豆やキビ入りなど顧客の要望を取り入れながらラインナップを増やしてきた。活動は、同年代のメンバーが互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、悩みを共有したり情報交換する交流の場にもなっている。

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永続へより強く 7集落営農組織で米共販 ―― 滋賀県甲良町・甲良集落営農連合協同組合
〈写真:フレコンバッグに入った炭をマニュアスプレッダーに投入する。左から新前さん、野瀬さん、上田さん〉
160101_01-3.jpg 滋賀県甲良町では、七つの集落営農組織が手を組んだ「甲良集落営農連合協同組合」を設立し、米の共同販売に乗り出している。2015年産は特別栽培「コシヒカリ」150トンを、愛知県のスーパーに販売した。協同組合化は、まとまった出荷量を確保できる上、任意組織と比べて取引の信用度が増すなど利点が多い。栽培方法を統一し、移植時期を遅らせて高温障害を回避。炭と家畜ふん堆肥の施用で食味向上を狙う。マニュアスプレッダーや汎用(はんよう)コンバインを共同利用するほか、農繁期には互いに人手を出し合う。地域内での連携を一層強め、経営向上を図っている。

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繁殖牛を放牧、獣害も減少 水田再生の息吹 ―― 山口市・山口型放牧あとう協議会
〈写真:「牛は、四輪駆動の雑草処理機みたいですね」と宗綱主任〉
160101_01-4.jpg 山口市阿東地区の「山口型放牧あとう協議会」は、中山間地の棚田など使われていない水田を活用し、妊娠した繁殖母牛の放牧を行う。数年にわたり放置されて草木が生い茂り、人が容易に立ち入れないような圃場に、牛を数カ月放牧すると見違えるほどきれいになる。草刈りの手間や餌代の削減につながり、繁殖農家と稲作農家の双方にメリットがある取り組みだ。県が間に立ち、牛の貸し出し期間を調整したり、安全対策を指導するなど安心して利用できる仕組みを構築する。条件不利な水田の管理だけでなく、獣害対策や癒やし効果などもあるとされ、中山間地の活性化につながっている。


(2-5面・新年号特集)