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防風林「農産物輸出の強化なら、殖産興業時代を見直せ【2015年11月3週号】」

 ▼「泰平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯で夜もねむれず」。黒船来航で役人や町民が慌てふためいた情景を風刺した狂歌。上喜撰は当時の茶銘柄、蒸気船との掛け言葉なのは説明するまでもない。日米の通商条約以降、日本の輸出産品として諸外国に人気だったのが生糸とお茶。
 ▼輸出用高級茶は陶製の器に詰め、木製茶箱で輸出、表側には「蘭字(らんじ)」と呼ばれるラベルが貼られていた。高品質な日本茶と色彩豊かなデザインが驚きをもって評価された。欧米の上流階級で流行っていた茶会が一般家庭にも定着し、高い需要の波に乗れたのだ。
 ▼明治初期までの蘭字は、浮世絵風の花鳥画が多かったが、中期以降は欧文と絵をアレンジした近代的な図柄に変化。大正期には着色茶や乱造粗製茶が出回り、米国で不正茶の輸入が禁止になり、ラベルには種類や産地のほか「無着色」との表示がなされたというから、今の偽装防止対策の先駆け。
 ▼第一次大戦後、世界市場を席巻した日本茶輸出はインド産に押され急激に減少したが、蘭字で培われた印刷技術は、後の商業用デザインに生かされて多くの輸出産品ラベルに活用された。
 ▼近年、日本食ブームの波に乗り日本茶輸出が伸びている。政府はTPPを背景に「攻めの農業」を推進する。黒船に震撼(しんかん)とした数年後には、日本は殖産興業の名のもと官民挙げて輸出促進を図った。蘭字の画集から当時の外貨獲得への意気込みが感じられる。政府や現場の取り組みの真価が問われるのはこれからだ。