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防風林「伝統野菜を守り後世につなげることも大切だ【2015年11月2週号】」

 ▼「亀戸大根」「滝野川牛蒡(ごぼう)」「小松菜」「練馬大根」。みな江戸・東京の伝統野菜。とかくこの話題を持ち出すと「?」といぶかしげな表情をする方が多いが、大都会・東京にも誇りを持ち伝統野菜を継承する農家は存在する。
 ▼小松菜は今や一般野菜として通用するが、東京都江戸川区小松川で育成されたことから命名された。葉が上に伸長する立性だが、江戸期の栽培品種は、横に伸びる平性の「後関晩成」という品種に近かったようだ。亀戸大根は江東区亀戸で栽培され、細く短いのが特徴。太陽光と高温に極端に弱いことから栽培が難しい。以前訪ねた農家は、太陽の傾きに合わせ簾(すだれ)の角度を調整するため、朝畑に向うと夕方まで帰宅しないと話していた。
 ▼江戸の町に独特な多種の伝統野菜が派生したのは、参勤交代の江戸詰め藩主(殿様)が、領内の野菜を求めたのが由縁らしい。藩邸の空き地で栽培したり近郷農家に委託や譲渡したりして採種・改良されてきたらしい。
 ▼江戸から地方に伸びる五街道沿いに、多くの種苗屋が店を構えていた。藩主に従い上京した武士が江戸下りする際や、行商人の江戸土産が種子だったのだ。種子は地方から都会に、そしてまた全国へと散らばった。
 ▼娘が嫁ぐ際に、嫁入り道具の一つとして、野菜種子を持たせる風習のあった農村は全国的にも多い。種子には命を繋ぎ、子々孫々の繁栄を祈る縁起物だったのかも。今、伝統野菜を復活させる活動が広がっている。練馬大根の発祥地・練馬では毎年、大根引っこ抜き競技大会が開かれる。こうして地域活性化の種子は後世につながる。