ヘッドライン一覧 購読申込&お問い合わせ 農業共済新聞とは? 情報提供&ご意見・ご感想 コラム防風林

防風林「知略なくして背水の陣を戦えず【2015年11月1週号】」

 ▼わが国の弥生後期(紀元前2~3世紀)は、中国の戦国時代。楚の項羽と劉邦(後の漢・太祖)が覇権を争い鎬(しのぎ)を削っていた。幾度もの戦いから「背水の陣」という故事が生まれ、絶体絶命の状況で最後の手を打つ場面で用いる。
 ▼劉邦の軍師・韓信は、項羽に寝返った趙軍の城を攻撃するため、手勢の一部を別動隊として迂回させ、残る兵力で敵城の前に流れる川を渡り、水を背に布陣する。数倍の圧倒的兵数を擁する敵将は、半分にも満たない敵軍を見て侮り城門から全軍を出動させるのだ。
 ▼その矢先、埋伏し隠れていた韓信軍の別働隊が、手薄な敵城を一気に攻撃し鮮やかに城を奪って勝利する。孫子の『兵法』でも、水を背にした布陣は最も愚策としている。なのに韓信が川を背にしたのは、不利を逆手に敵将に侮りの心を起こさせる戦略だったのだ。
 ▼実はこの戦い以前、項羽は秦との攻防戦で、渡河後に舟や兵糧を川底に沈め退路を断ち、川を背にした兵が死にもの狂いで戦うことにより大勝した。こちらが故事の由縁との説もある。
 ▼環太平洋連携協定(TPP)交渉は、将来的に日本農産物の多くを関税撤廃とし、海外産品と戦うことで大筋合意。まさに川を背に布陣したようなもの。戦略なき背水の陣に勝ち目はない、と『史記』(司馬遷)は示唆する。農水省は農産物の多くを「特段の影響は見込み難い」と予測するが、相手国は日本向けの戦略を練る。日本も韓信や項羽のような知略で、一発逆転をねらえればいいのだが。