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防風林「小さな日本の小麦育種が飢餓を救う偉大さ【2015年10月1週号】」

 ▼真っ白な豪州産小麦粉「ASW」がわが国の加工用小麦として席捲して以降、乳白色の国内品種はうどんやパンへの加工適性に劣るとされ、次第に栽培が縮小してきた。
 ▼1935年に日本で育成した「農林10号」が、世界で栽培される多くの小麦品種に形質が受け継がれ、「緑の革命」の礎を築いた事実は知られていない。育種家・稲塚権次郎の生涯を描いた映画「NORIN TEN 稲塚権次郎物語」(稲塚秀孝監督)を観た。
 ▼北陸の寒村に生まれ、冷害に強い水稲育種で郷土へ恩返しをと願う稲塚。秋田の農事試時代に「農林1号」「陸羽132号」の育成に貢献した矢先、盛岡への異動が命じられ小麦の品種改良に没頭する。
 ▼稲塚は、日本在来の短稈種「達磨」系統と、トルコ系統を交配することで、草丈が低く良質で多収の農林10号を作出した。戦後、米国の研究者の手で農林10号を交配親にした小麦が、乾燥地帯での生産量を増大させ、飢餓克服を果たしたことから緑の革命と賞賛された。
 ▼優良品質の作出が、人類の生命をつなげ、独自の食文化や産地の形成にも貢献する。品種一粒のもつエネルギーの可能性に驚かされる。