▼戸締りをせずに外出しても、空き巣などへの警戒が不要だった時代はそれほど遠い昔ではない。帰宅したら玄関の上がりかまちに、お隣さんからおすそ分けの品が置いてある......農村部や都市の下町界隈ではそんな人間関係を大切にしてきたものだ。
▼近年、栽培中の農作物や農機具が忽然(こつぜん)と消えてしまう盗難事件が続発し、玄関や格納庫の施錠に加え、自動感応式ライトを設置して防犯対策を講じる家庭も多い。鍵が掛かる納屋に格納して、エンジンキーを抜いた状態なのに盗まれた、という犯行事例もあり、念には念を入れるに越したことはない。
▼宅地化や混住化により、農村部も勤労者世帯が急激に増え、顔見知りの資材販売店やJA、NOSAI職員のほかにも、多種多様な業者が絶えず道を往来し、住民は意識なしに風景として見過ごしてしまっている。
▼「窃盗犯が作業服姿で店員になりすまし、堂々とトラクターを操作して持ち去った」「昼間は何らかの業者に身をやつし、物色しているようだ」との報告も耳にする。他人を過剰に疑って見る視線や行動は、近隣住民同士の「絆」にほころびを生じさせてしまう恐れもあり、いざ対応するとなると難しい。
▼地元の高齢者に散歩や水田見回りの途中で目を光らせてもらい、夜は自治会でパトロールをし、暗がり箇所の街灯設置を自治体に要請してもいいだろう。要は、個々の防犯意識と、住民同士のつながりを深めながら、おすそ分けができるような農村環境に戻せればいい。