複数の病害虫に抵抗性を持つ新品種や超多収米などの育成を目指し、農林水産省は、イネゲノム(全遺伝情報)の研究成果を活用した「新農業展開ゲノムプロジェクト」を展開中だ。従来方法に比べ、的を絞った短期間での育種が可能となり、大幅な生産性向上のほか、作物を利用した環境・エネルギー問題への貢献が期待されている。同省は21日、シンポジウムを開き、陸稲が持つ強いイモチ病抵抗性遺伝子を「コシヒカリ」に導入した「ともほなみ」の育成ほか、段階的に進める多収米開発に向けた研究成果などを報告した。
ともほなみの育成は、農業生物資源研究所の福岡修一主任研究員が発表した。イモチ病が激発する圃場で栽培しても十分な抵抗性を発揮し、コシヒカリ並みの良食味を兼ね備える。減農薬栽培が可能で、コシヒカリ栽培地域への普及が期待されている。
イモチ病の抵抗性遺伝子は、強く安定した抵抗性を発揮する陸稲「戦捷(せんしょう)」から導入した。強い抵抗性遺伝子を特定し、コシヒカリと交配して作出した後代の6千個体から、塩基配列で遺伝子を確認するDNAマーカー育種の方法で選抜した。
従来の交配育種では、抵抗性を導入しても抵抗性が安定しなかったり、食味が落ちる問題があった。研究では、抵抗性遺伝子のそばに食味を損ねる遺伝子があると突きとめ、抵抗性遺伝子を持つ個体だけを残した。福岡主任研究員は「イモチ菌に対する反応がこれまで知られた抵抗性遺伝子と異なる。安定した抵抗性を長く保つと考えられる」と説明した。
超多収品種の育成に向けた研究成果は、名古屋大学大学院の松岡信教授が報告した。イネの多収性にかかわる形質のうち、穂の長さや分枝数を増やす遺伝子、茎を太くする遺伝子などを特定した。
将来にわたる食料の安定的な確保や農山漁村の活性化に向け、研究開発への期待が高まっている。政府が振興する飼料用や米粉用など新規需要米の普及、エネルギー利用を進めるバイオマスの実用化には、生産性の向上によるコスト低減が欠かせない。地球温暖化の進展による気象災害の多発などを背景に、病害虫抵抗性や高温・低温に対する耐性の強い品種開発も要望されている。
(2面・総合)